ネットワークカメラ推進会

Network camera promotion and communication

スペックなんて気休めに過ぎない

カタログスペックはただの参考値

 

 筆者はしばしばこのサイトで説明を行っているが、ネットワークカメラにおける『カタログスペック』ほど、いい加減なものはない。

 つまり製品比較を行う際にカタログだけで比較するのは、適切ではないということである。一例を紹介しよう。

 

 

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各メーカーの低照度性能

 

そもそも1ルクスとは? 

 

 ネットワークカメラのスペックの1つに、低照度性能がある。これは『いかに暗い場所でも撮影することができるのか?』を記載したものである。

 各メーカーのカタログスペックを見ると、XXXルクスと記載があるが、この数値が低ければ低いほど暗い場所でも撮影ができるということである。

 

 まず、このXXXルクスという表現自体がピンとこないが、一般的には『真っ暗の部屋で1m先に設置した小さいロウソクの光』が1ルクスと言われている。

 

 

 ・・・ますますピンと来ない。

 

 誕生日だってケーキに5本くらいはロウソクを立てているし、1本だけロウソクを灯すシーンなんて、人生の中でもなかなか経験がない。体感上では分かりにくい単位である。

 

 

明確な測定基準は存在しない

 

 ネットワークカメラの低照度性能の比較をさらに困難にしているのが、業界全体で明確な測定基準や国際基準が存在していないのである。いや、もしかしたら筆者が無知なだけで何らかの基準や規格はあるのかもしれない。

 

 しかしながら、少なくとも2019年現在においては、各メーカーはそれぞれの判定基準によって低照度性能を測定しており、また、カタログスペックの表記の方法もバラバラである。以下がそのサンプルだ。

 ※なお、WEBサイトに掲載されているものをてきとうに引用しているだけなので、正確なスペックは各メーカーおよび販売店の仕様書を確認して欲しい。

 

アクシスコミュニケーションズ P1375-E

HDTV 1080p 25/30 フレーム/秒 Forensic WDRとlightfinder使用
カラー: 0.05ルクス(50IRE、F1.2)
白黒 : 0.01ルクス (50IRE、F1.2)
HDTV 1080p 50/60 フレーム/秒 Forensic WDRとlightfinder使用
カラー : 0.10ルクス(50IRE、F1.2)
白黒 : 0.02ルクス (50IRE、F1.2)
赤外線照明使用時:0ルクス (オプション AXIS Fixed Box IR Illuminator Kit A)

 

パナソニック WV-S1130V

カラー
0.014 lx(F1.5、最長露光時間:OFF(1/30 s)、AGC:11)
0.0009 lx(F1.5、最長露光時間:最大16/30 s、AGC:11) ※換算値
白黒
0.012 lx(F1.5、最長露光時間:OFF(1/30 s)、AGC:11)
0.0008 lx(F1.5、最長露光時間:最大16/30 s、AGC:11) ※換算値

 

ハイクビジョン DS-2CD2822FWD

最低照度:0.01Lux@F1.2

 

VIVOTEK IP9165-HT

0.01 Lux @ F1.5 (カラー)
0.005 Lux @ F1.5 (白黒)

 

 上記のように、どのメーカーも単位としては『ルクス』で記載している。

 しかしながら、測定時の『シャッタースピードを記載していない場合』や『IREという輝度を記載していない場合』もあり、どのような環境で測定しているのかをスペック表から読み解くことは困難だ。

 

 同一メーカーの性能比較であれば多少は参考になる場合もあるが、異なるメーカーのスペックを比較する場合、カタログに記載されている数字は、ほとんど無意味と言っても良い。

 

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日本の企業や官公庁はスペックに固執する傾向

 

 このようにネットワークカメラのカタログスペックは『参考程度』のものでしかない。他メーカーを比較する材料としては明らかに不十分なのだ。

 

 しかしながら、日本の企業や官公庁が調達のために『購入仕様書』を作成する場合、残念ながらこのカタログスペックが1つの基準になってしまう。というよりも、仕様書を作成するに当たり、カタログスペックを記載するしか方法がないのだ。

 

 そのため、事実上、無意味な数字が『購入仕様書』に記載されることになり、各ベンダーはその数字に翻弄されながら機種選定を行うわけである。少しでも仕様書に逸脱する場合、商談に参加できないことだってある。

 

 ネットワークカメラの購入仕様書を作成するのは、非常に難しい作業なのだ。

 

 例えば、PCの調達であれば、CPUやメモリ、HDD容量、OS、保守年数などある程度、カタログからスペック比較をすることができるだろう。

 

 しかしながら、ネットワークカメラの場合、同じ『最低照度性能:1ルクス』という表現でもA社とB社では、まるで違う測定方法を行っているのだ。合理的な比較を行うことは困難である。

 

 まずは、この事実を知ってほしい

 

 改めてネットワークカメラのカタログスペックは『参考程度でしかない』ことを説明したが、まずは、世間全体でこの事実を知ってほしいのだ。

 

 今回は、低照度性能を1つの例として記載したが、それ以外の項目においても、ネットワークカメラのスペックは、必ずしも他社比較ができる指標ではない。

 ものすごく乱暴な言い方になるが、赤外線の投射距離やダイナミックレンジのスペックなども、いい加減な数字だ。

 

 どうしてもカタログに記載された数字に注目してしまうところがあるが、それをすべての判断基準としてはならないことを強く申し上げたい。