カタログスペックは絶対的な指標ではない
筆者は、何度もこのサイトで申し上げているが『ネットワークカメラシステムのカタログスペックは参考値でしかない』と考えている。
例えば、暗い場所での撮影の能力を示す『最低照度性能』の記載内容であるが、各メーカーがバラバラな基準で計測しており、業界の統一したルールが決まっていないため、異なるメーカー間でスペック比較を行うことは事実上、困難だ。
しかしながら、日本の大手企業や官公庁の一部では、カタログスペックを絶対的な指標として判断材料にしているケースがある。
もちろん『要求仕様を満たしているかどうか』をチェックする最も分かりやすい方法として、カタログスペックでチェックするのは必ずしも悪いことではないと思われる。
しかし、あまりにもカタログ上のスペックだけで、厳密に要求仕様内容を満たしているかどうかを判断していると、本質的な導入目的からブレてしまうことがある。
具体例について説明しよう。
光学ズーム20倍と21倍の違いとは?
例えば、顧客の要求仕様書に『21倍以上の光学ズーム機能を保有していること』との文言があったと仮定する。この場合、光学20倍ズームのカメラは仕様内容に合致しないため、選定することができない。
しかしながら、筆者の個人的な考えではあるが『実運用としては光学20倍も光学21倍も体感上の差は得られない場合』も多い。
光学ズームの倍率(スペック)はあくまでも焦点距離の問題であって、ユーザーにとって最も重要なことは『見たい被写体が見えるかどうか』である。
設置のシチュエーションにもよるかもしれないが、上記のズームのスペック差が影響することは少ないだろう。
むしろ、それ以外の性能(色収差の発生具合やズームアップの速度など)の方が重要なケースもある。
とはいえ、どこかで<線引き>や<足切り>をしなければならないため、(すべてのスペックを許可するわけにはいかないため)、要求仕様書によりスペックを定義していくわけであるが、ネットワークカメラシステムの場合、あまりにもカタログスペックにこだわりすぎると、選択肢が狭くなってしまい、顧客メリットが少なくなってしまうリスクが存在している。
赤外線投射距離 20mと30mの差とは?
赤外線投射能力についても、正直なところ、筆者はあまりカタログの数字は信用できないと考えている。つまりA社がカタログに記載している『赤外線投射距離 20m』とB社がカタログに記載している『赤外線投射距離 20m』 では、全くその能力が異なる場合があるのだ。
仮に、A社がカタログ上で赤外線最大投射距離:20mと記載していたとする。また、B社は赤外線最大投射距離:30mと記載していたとする。
単純にカタログスペックだけで比較してしまうと、B社の方がスペックが高いように感じてしまうが、実際の映像で比較すると、A社の方がよりキレイに被写体に対して、赤外線投射ができるケースも少なくない。
赤外線投射のカタログスペックも、各メーカー毎で測定基準がバラバラである。また、赤外線投射距離の最大値が高ければ高いほど良いというわけではない。
実際には、被写体に応じていかに『最適な光量を当てられるか?』『フォーカスを合わせられるか?』が重要であり、カタログスペックの投射距離だけで判断するのは適切ではない。
水平画角は広ければ良いというわけではない
これも、誤解を生みやすいスペックであるが、水平画角は広ければ広いほど良いというわけではない。例えば、部屋のコーナーにカメラを設置する場合を考えてみよう。
水平画角が【120度のカメラ】と【100度のカメラ】があった場合、どちらを選択するだろうか?
なんとなく直感的には水平画角が【120度のカメラ】の方が画角が広くて良いと思われるかもしれないが、必ずしも画角は広ければよいというわけではない。
画角が広すぎてしまうと、映像に『歪み』が生じてしまう可能性高くなり、被写体を適切に撮影できないリスクがあるのだ。
たいていの場合、部屋の角は約90度で設計されている。理論上は、90度以上の画角をカメラが保有していれば問題ないのだ。
※なお、実際に障害物などで部屋の角に設置できず、少し前に出して設置しなければならないケースもあるので『90度より少し画角が広いくらい』が丁度良い。
全方位カメラは万能ではない
また、『360度閲覧できる全方位カメラの方が高スペックだ』と思われるユーザーも多いが、これも誤りである。
360度を閲覧できる全方位カメラは、1台のカメラで広い範囲を撮影できるというメリットがある一方で、カメラからの距離が離れるほど、映像の歪みが大きくなる。さらに、録画データが重たくなるという弱点もある。
高い天井に設置し、ヒトの動線を見る場合は、全方位カメラの方が見やすいこともあるが、天井が低い場合、全方位カメラでは歪みやボヤけが大きく、逆に見えにくくなってしまうことがある。
最後に
これは筆者の偏見かもしれなないが『日本人は良くも悪くも非常に細かい性格である』印象を持っている。要求スペックから1つでも満たしていない項目があった場合、採用機種として認められないケースがあるのだ。
もちろん、その要求スペックが顧客の運用/設置環境において、非常に重要な項目であった場合は別であるが、
本来の導入目的においてはそれほど重要な項目ではないのに、あまりにもカタログに記載されたスペックの数字にこだわるのは望ましくない。
『絶対的に譲ることができない必要なスペック』だけを決めて、ある程度、融通の効く要求仕様書の方が、顧客の選択肢は広がるのではないかと考えている。