納品直後の重トラブル
ネットワークカメラシステムを設計・納品するベンダーの担当者にとって、最も頭の痛い問題の1つが、納品直後のトラブルである。
トラブルが発生する原因は様々である。例えば、システム設計そのものに誤りがあったり、製品の初期不良があったり、コミュニケーション上の行き違いがあったり…ケースバイケースだ。
その納品直後のトラブルの中でも、もっとも厄介なのが『PCのフリーズ』である。CPUやメモリ、GPUの能力は十分であるにも関わらず、機器の相性問題や予期せぬバグなどに苦しめられることもある。
俗に『Kernel-Power 41病』と呼ばれる原因不明のPCのシャットダウンやフリーズに悩まされることもある。ログデータから明確な原因を分析することができないため、解決に時間がかかり重クレーム化することも多い。
システム設計者のジレンマ
ネットワークカメラシステムを設計する担当者にとって、悩ましい問題が『映像の閲覧用端末(ビューワーPC)の選定』である。PCに詳しい方だと分かるかと思うが、そもそも一般的なPCは24時間の常時起動を想定して製造されていない。
しかし、ネットワークカメラシステムではPCを24時間、常時起動(表示)しなければならないことも多い。そのため、この時点で製品仕様と顧客のユースケースに矛盾が発生しているのだ。
『じゃあ、24時間の稼働が可能なサーバーやワークステーション、産業用PCを選定すればいいじゃないか!?』と思われる読者もいらっしゃるかもしれないが、ネットワークカメラシステムの選定はそのように単純なものではない。
なぜならば、例えば、Windowsサーバーにおいては、一般的に『Xeon』と呼ばれるサーバー向けのCPUが搭載されている。これらのCPUについては『レコーダー側の動作検証済のCPUになっていない』ケースも多いのだ。
例えば、ROD社のDIGISTORの場合、推奨するビューワーPCのスペックは以下の通りだ。
Windows10 Pro 64bit
CPU Corei7 2.8GHz以上
メモリ 8GB以上
ビデオカード GTX1060相当
この条件をベースに閲覧用端末を探した場合、サーバーでは、なかなか該当する機器を選定するのが難しいのが分かる。サーバーでは、グラフィックの能力が低いモデルも多いため、注意が必要だ。
ビデオカードもQuadroは搭載できても、GeForce系のモデルはオプションで選択できない場合もある。
また、実際の商談においては『限られた予算や納期』でシステムを完成させなければならない。特殊なサーバーや産業向けPCは、納期や金額の問題で選定が難しい実情もある。
24時間の常時起動は望ましくないと分かっていながらも、一般的なPCを選定せざるを得ないのだ。
フリーズが発生する場合の対処法
では、実際に、納品後にフリーズが発生してしまった場合、どのような対処法があるのだろうか?
あくまでも一例であるが、その予防策について紹介したい。
原因分析フェーズ
まず、最初に実施するべきことが『ログの収集』や『設定情報の確認』などの原因分析である。ログの収集は【Windowsのシステムログ】のほか【閲覧用ソフトのアプリケーションログ】、【ウィルス対策ソフトのログ】なども収集しておくことが望ましい。
また、『納品時にシステム設計以上の無理のある設定を入れていないか?』『誤った設定をしていないか?』なども確認する必要がある。さらに、PC本体がホコリなどで熱くなっていないか、十分な容量の電源を確保しているか、など設置環境の確認も必要だ。
対策・予防フェース
原因対策フェーズで、ある程度、フリーズの原因を特定ができた場合は問題がないが、残念ながらログデータからは原因が分からない場合もある。その場合は、フリーズを防ぐための、ありとあらゆる対策を実施するしか方法がない。
①セキュリティ対策の解除
最初に実施することが、セキュリティ対策の解除である。ウィルス対策ソフトはできるだけアンインストールすることが望ましい。除外設定だけでは、バックグラウンドで動作するプログラムを停止できない場合もあるため、可能な限り、ウィルス対策ソフトはアンインストールしておきたい。
ネットワークカメラの映像は、大量のパケットデータを処理することとなるため、どうしてもウィルス対策ソフトでは不正な通信としてブロックされたり、検閲に時間がかかりタイムアウトとなることがある。不具合の原因となるため、ウィルス対策ソフトはできるだけ利用しないことを推奨したい。
また、ブラウザの信頼済サイトへの登録やファイアウォールの開放、ユーザーアカウント制御の解除なども実施しておくと良いだろう。
②省エネ対策の解除
続いて、実施したいことが『省エネ対策をしない』ことである。近年のPCでは、省エネ対策ソフトがプリインストールされているものも多いが、これが、結果として逆効果になり、PCのパフォーマンスを落としてしまうことがある。
電源設定で『高パフォーマンス』に設定したり、高速スタートアップをしない設定に変更することも重要だ。USB端末を接続している場合、USBの省エネ対策もオフに変更しておきたい。
③アプリケーションやドライバの更新
ビューワーのアプリケーションのバグやドライバの相性によりフリーズが発生してしまうこともある。閲覧用のビューワーソフトを最新へバージョンしたり、OSの更新を行ったり、各種ドライバを更新することも重要な対策である。
特に問題のない設定を入れていてもPCのフリーズが発生してしまう場合、ほとんどの原因は『何らかのバグ』があるものと思われる。これらのバグを修正するためにも、OSやアプリケーション、ドライバーは最新のものを当てておきたい。
※ただし、ネットワークカメラシステムの場合、インターネットがないオフライン環境で構築するケースも多いため、更新が難しい場合もある。
④不要なアプリケーションやサービスの停止
ネットワークカメラのビューワー専用のPCとして導入した端末の場合、極端な話をすると、それ以外のアプリケーションは、本来は不要である。
例えば、スカイプなどのビデオ会議のアプリケーションがネットワークカメラシステムのアプリケーションと競合してしまったり、特定のサービスがメモリを消費していることもある。
不要なアプリケーションはできるだけアンインストールしておきたい。
⑤HDDのデフラグ
PCのフリーズの対策として、HDDのエラーチェックやデフラグも実施しておくと良いだろう。
⑥定期的なPCの再起動
①~⑤の対策を実施しても問題が解決しない場合は、定期的にPCを再起動することも有効である。というよりも、原因が分からず、事実上、PCの定期的な再起動を行うほかに対策がない場合もある。
PCの再起動を行うと、余計なデータのゴミがリフレッシュされるため、フリーズを防ぐための予防となる。
手動で再起動を行うこともあれば、タスクスケジューラで自動的に再起動させる方法もある。
最後に
導入した直後のシステムでフリーズが続いてしまうと、ユーザー側もベンダー側も、精神的な冷静さを失ってしまうことがある。
ユーザーは『買ったばかりなのになぜPCが固まるんだ!どうにかしろ!』とクレームを言い、ベンダー側なかなか解決できないと焦ってしまうだろう。
しかしながら、焦って冷静さを失って作業をしていると、誤操作によりシステムの不具合を悪化させてしまう可能性があるほか、適切な判断ができなくなってしまう。
何か不具合が発生した場合は、まずは落ち着いて原因を分析し、対策を行うべきである。冷静な対処こそが、最短の解決方法だ。