よく起こりがちなミス
ネットワークカメラシステムは、従来のアナログカメラシステムと比較すると、『できること』が圧倒的に増えている。様々なアプリケーションがリリースされ、映像解析による業務の改善が進んでいる。
一方で、システム設計や設定をミスすると、重大なトラブルになりかねない。今回は、ネットワークカメラシステムで発生しがちなトラブルの例を紹介しよう。
録画容量の計算ミス
ネットワークカメラシステムの中でも、やってはいけないトラブルが『録画容量が足りない』というトラブルである。コストを気にしすぎて、ギリギリのHDD容量でシステム設計をしてしまうと、容量不足に陥ってしまうかもしれない。
特に、気を付けなければならないのが、HDDはすべての領域に録画できるというわけではないということである。1TBのHDDを購入したとしても、1TB分がすべて利用できるわけではない。
システム領域が必要とるほか、そもそもコンピュータは『1KBを1000バイトではなく、1024バイトで計算する』ため、コンピュータ上で認識される容量は1TBよりも少なくなってしまう。
また、ネットワークカメラは『映像によって録画容量が大きくなってしまう』ケースが往々にして存在する。H.264形式の場合、ノイズや動きの変化量が多い場合、想定の録画容量よりも膨らんでしまうリスクがある。JPEG形式の場合も、カラフルな被写体であった場合、容量が大きくなることがある。
HDDはかなり余裕を持たせてサイジングしなければならないのだ。筆者は、理論上の録画容量よりも1.5倍くらいのHDD容量で設計することを推奨している。
カメラやレコーダーの処理速度が不足する
HDDだけでなく、カメラやレコーダーのCPUの処理が追い付かず、ハングアップしてしまうこともある。
例えば、1台のレコーダーやカメラに対して、何台ものPCから接続しようとすると、処理速度の限界を超えてしまうことがある。ネットワークカメラのレコーダーは、PCから接続して閲覧できるモデルも多いが、何台もPCを接続させてよいというわけではない。一度に複数のPCから接続してしまうと、当然ながらレコーダーの負荷が大きくなる。
また、モーション検知のログが異常に多かったり、高すぎる設定値で録画しようとすると、負荷が大きくなってしまうことがある。
仮に、H.264で10fpsの設定を行うべきだったものを、間違えてJPEGで10fpsの設定をいれてしまったとしよう。H.264形式では、2Mbps程度でよかった通信量が、JPEGの場合、10Mbpsを超えてしまうこともある。
設定を間違えてしまうと、致命的なシステムトラブルになりかねない。
ネットワーク機器の負荷を超えてしまう
HDD容量の不足と似ているが、PoE HUBの処理速度が不足してしまうことでトラブルになってしまうことがある。単純な話であるが、100Mbpsの処理速度を持つネットワーク機器に対して、150Mbpsの通信をさせようとすると、正しく通信することができず、システムが不安定になってしまう。
また、100Wの電源供給能力しかないPoE HUBに対して、150W分の電源を必要とするカメラを接続させると、当然ながら電源供給能力が不足し、カメラの電源が入らないリスクがある。
PCの表示能力が足りない
カメラの台数が多いのに、PCのグラフィックスの能力が低い場合も、PCがフリーズしてしまう要因となる。各レコーダーメーカーは推奨とするPCスペックを公開しているので、その数値を参考にして欲しい。
実際に筆者も何度かこの問題の対処を経験している。最悪の場合、PCの買い替えが必要なケースもあるので注意したい。
十分なスペックを持っていたとしても、グラフィックボードとアプリケーションの相性が最悪な場合、やはりPCが不安定化する要因となる。
カメラの権限を考慮しない
これはちょっと難しいかもしれないが、ネットワークカメラには『root権限』や『管理者権限』と呼ばれる概念がある。
つまり、一般の権限でログインした場合は『映像を見ること』しかできないが、『root権限』や『管理者権限』でログインすると『映像を見ることだけではなく、設定値を書き換えること』もできるのだ。
しかし、1台のカメラに対して複数の管理者権限でログインしてしまうと、カメラがハングアップしてしまうことがある。つまり端末Aは『右を向け』と言っているのに、端末Bが『左を向け』と同時に指示すると、カメラが混乱してしまうのだ。
筆者はこれを『管理者権限の奪い合い』と呼んでいる。1台のカメラに対して、複数のレコーダーを接続させると、この現象が起こるリスクがある。
コミュニケーションのミス
最後に忘れてはならいのがコミュニケーションの問題である。つまり、顧客が『2週間の録画をしたい』と言っていたのに、録画期間は1週間分だと聞き間違えてしまうと(あるいはメモをし忘れてしまうと)、当然ながらHDD容量が不足するリスクが高くなる。
実際の現場では、コミュニケーションの問題は往々に存在している。すぐに決まるような商談であれば問題ないが、商談によっては半年~1年以上のスパンで行うケースもある。ずっと会話しているうちに顧客側もベンダー側も記憶が曖昧になってしまうのだ。
商談時はきちんと『要求定義』を行い、顧客の要望が何であったのかをきちんとエビデンスとして残しておく必要がある。
最後に
ネットワークカメラシステムは慣れてしまえば決して難しい商材ではないが、あまりにも無知なまま販売(あるいは導入)しようとすると、重トラブルを引き起こしかねない。
ベンダー側も顧客側も十分に気を付けて欲しい。