技術革新のために、サービス終了は仕方がない
昨今、ネットワークカメラについては、日々、新しい技術が開発され発展をとげている。
もちろんそれは、カメラ本体だけではなく、録画サービスなど様々な付随するソリューションも同様である。
当然、新しいサービスを開始するためにはレガシーなサービスは停止させ、新サービスへと移行しなければならない。
筆者は基本的に”新しい製品やサービス”を積極的に取り入れて、古い製品やサービスは終息させるべきだと考えている。あまりにも古い製品をサポートしすぎると、技術革新が遅れてしまうためだ。
日本でITを普及させるためには、新陳代謝が必須だと考えている。
しかし、あまりにも急激にサービスを終了すると、利用するユーザーから信頼を失うこととなるため注意が必要だ。
※なお、本記事は、特定の企業や団体、個人に対して向けられたものではない。
筆者の ”若いころの思い出” 程度で読んでいただけると嬉しい。
「もうこんな会社やめてやる!」
もう10年以上前の話だ。私はあるネットワークカメラメーカー某社に勤めていた。基本的には、組織の方針に従順だったと思う。
しかし、ある時、サービス終了をめぐって会社に大きく反発したことがある。
それはクラウドサービスの終了だ。某社のネットワークカメラのクラウドサービスが発売されたのは、たしか2010年くらいのことだったと思う。
しかし、当時はまだクラウド録画という仕組みが流行っておらず、ほとんどユーザーを増やすことができなかった。
当時はまだADSLを利用していたユーザーも多く、ネットワーク回線が安定していなかったことやカメラの映像圧縮技術も発展途上であったことから、ユーザーにサービスが浸透しなかったのだ。
そこで某社では、クラウドサービスの刷新を決意する。
しかし、この時、問題となったのが利用中のユーザーへのフォローだ。
「1週間以内にユーザーに通達してください」
ある日の夕方、仕事をしていると本社から突然、クラウドサービスが刷新されることの通達が出された。
「クラウドサービスは新サービスへと移行します。現在のサービスは9月末にはサーバーを停止するので、これから1週間以内に既存ユーザーに通達してください」という内容だ。
この通達の最大の問題点が一部のユーザーの利用価格が月額2万円程度から、月額10万円以上に値上げされることであった。
旧サービスと新サービスでは、サービスを開発しているベンダーが異なり、全く互換性はなく、料金体系も大きく違った。そのため、一部のユーザーでは、月額利用料金が大きく上がってしまうのだった。
これを1週間でユーザーに伝える必要があった。
月額10万円に値上げすることをユーザーに伝えて、怒らないわけがない。しかもよりによって、対象となる顧客はネットワークカメラだけではなく、様々な機器を購入されていた大切な優良顧客だったのだ。
会社と揉めるが、救済策はない
『こんなことが許されるわけがない!』そう考えた私は会社に対してユーザーの救済策を作って欲しいとお願いした。
あまりにも値段が跳ね上がるユーザーについては特別価格で提供するなど、対策を考えて欲しかったのだ。
しかし、会社側から提案された内容は、「最初の2ヶ月は特別価格で対応するが3ヶ月目以降は救済策は適用しない」というものだった。
この時、会社に対してあまりにも大きな失望を感じたことを覚えている。その時、言った言葉が「こんなムチャクチャなことをユーザーに押し付けるなら、僕は会社をやめますよ!私もまだ若かったので、血気盛んだったのだろう。
クラウドサービスをやめてNVRで録画
結局のところ、このユーザーへの対処方法としては、クラウドサービスをやめることにした。
たしか10拠点くらいを管理していたユーザーであったが、すべての拠点にダイナミックDNSを割り当てて、本社のNVRで録画することにしたのだ。
この方法であれば、なんとか既存の利用料金とほぼ同等のリース料金で済むのだった。
しかし、ネットワークカメラに詳しい方であれば分かると思うが、このシステムの入れ替えはリスクが高いものだった。
つまり、各拠点のネットワークカメラのデータが本社に一斉に届いてしまうのだ。当然ながら、本社のネットワーク負荷はとても大きなものになってしまう。
そもそも、ローカルにNVRを設置することが嫌だったから、わざわざクラウドサービスを使っていたのだ。それを今さら、本社に録画装置を設置し、集約する提案を行うのである。
もし、本社のNVRが故障してしまえば、当然、録画は止まってしまう。しかも、NVRの保証期間は一年だから、二年目以降に故障が発生すると多額の修理費用が必要だ。
もうムチャクチャな話なのだけれど、それしか解決策はなかったのだ。
結局、なんとか導入頂けることになったのだが、お客様の信頼を落としてしまうこととなった。
信頼性の高いブランドなのに…。
ここで一つ言っておきたいのが、私が勤めていた某社は決して中小零細企業の企業ではないと言うことだ。
むしろ、日本人であればほとんどの人がブランド名を知っている大手の会社である。
その後も某社は様々な製品・サービスのサポートを終了し、その度に現場は混乱し、大変な想いをするのであった。
いま想うこと
当時は、若かったこともあり反発してしまったのだと思う。また、事業全体のことを考慮すると、会社の決定も十分に理解できる。
ネットワークカメラのように、他メーカーも新しい製品や技術を五月雨式にリリースしている市場においては、製品やサービスのリニューアルは必要なことだ。
いつまでもレガシーな製品やサービスをサポートし続けるわけにはいかない。
しかしながら、当時、某社で一緒に働いていたメンバーは本当に辛い想いをしていたことは間違いないことだと思う。そして、まだ、某社のネットワークカメラ事業で戦っているメンバーは、おそらく苦しい状況にあると思う。
※繰り返しとなるが、なお、本記事は、特定の企業や団体、個人に対して向けられたものではない。ただの、筆者の ”若いころの思い出” だ。