非常に曖昧な基準
ネットワークカメラを推進していこうとする立場の筆者がこのようなことを言うのは適切ではないが、ネットワークカメラほどカタログスペックの表記が曖昧で分かりにくいものはない。
仮に、競合比較のために2社のカタログスペックを比較したとしても、それはあくまでも参考に過ぎない。
例えば「どれだけ暗い場所でも撮影ができるか?」ということに対するカタログの書き方だ。コンシューマー向けのネットワークカメラのカタログや広告を見ると度々【暗視対応】という表現がある。
しかし、この【暗視対応】という言葉は、各メーカーでバラバラにその基準を持っており、明確なルールは存在しない。
「カラーからモノクロに切り替わるデイ・ナイト機能を保有していれば暗視対応なのか?」
「赤外線機能を保有していれば、暗視対応なのか?」
「カラーで1ルクス以下で撮影できれば暗視対応なのか?」
・・・特に明確な基準はないのである。
カタログの表記について
また、カタログに記載されているカタログスペックの数字も非常に曖昧だ。ここでは赤外線投光機能と低照度性能を例に説明する。
※なお、メーカー名やモデルは伏せておく。
<例1>赤外線投射機能
例えば、この<赤外線機能>を見ても、各社で●●mの投光が可能などと記載があるが、これは各メーカーが各々に測定し、カタログ値を決めている。よって、A社のカタログの投射距離:30mとB社のカタログの投射距離:30mは、実際の映像が異なるのである。
<例2>最低照度性能
また、最低照度性能「●●ルクスで撮影可能」などと記載があるが、これも極めて基準が曖昧だ。カメラに詳しい方ならわかると思うが、ネットワークカメラには<シャッタースピード>という概念がある。シャータースピードを速くすると動きの速い被写体も撮影ができるようになるが、画像全体は光が取り込む能力が下がるため、暗くなる。一方、シャッタースピードを遅くすると、動きの速い被写体はボヤけてしまうが、暗い場所でも撮影できる。なんと、最低照度性能を測る際のシャータースピードでさえ、メーカーごとに異なっていたりするのだ。
なお、一般的にはIREという暗い場所で何%くらい被写体が見えるかという基準があるのだが、これも30IREで記載されたものや50IREで記載されたものがあるなど、各メーカーでバラバラなのだ。
具体的なカタログを見てみよう。なお、低照度性能については、数字が低いほどスペックが高いということである。
<A社>ズームカメラのサンプル(カラー)
0.015 lx(F1.6、最長露光時間 : OFF(1/30 s)、AGC : 11)
0.001 lx(F1.6、最長露光時間 : 最大16/30 s、AGC : 11)※換算値
<B社>ズームカメラのサンプル(カラー)
0.05Lux@F1.6
<C社>ズームカメラのサンプル(カラー)
0.9 lx(50 %出力,AGC High,Wide端)
<D社>ズームカメラのサンプル(カラー)
0.2 lux at 30 IRE F1.6
0.25 lux at 50 IRE F1.6
このデータだけを見ると<A社>が一番性能が高くて、<B社><D社><C社>と続くように思えるが、実際にはそうとも限らない。どのメーカーの機種が暗い場所で強いかどうかは、同一環境で横に並べて検証するしか方法がない。機種ごとに、ノイズの入り方や見え方も全く異なる。
そもそも、このLux(ルクス)ということさえ、一般人にはあまりピンとこないのではないだろうか?1Lux(ルクス)が小さいロウソク1本分程度の明るさと言われているが、0.0●●ルクスなどと言われても、全然、実感が湧かないだろう。
車を購入するときに、同じ馬力の車でも実際に乗ってみると、実際に運転したときの走りが全然違うように、カメラも2台並べて撮影しないと適切な結果は得られないのだ。ネットワークカメラも、カタログで見た数字と実際に肉眼でみた映像は大きく異なっていることがある。
ROD社の映像エバリュージョン
このように単純なカタログスペックだけでは比較が難しいネットワークカメラにおいて、よりフェアな状況下でランキングを決めているのがROD社の映像エバリュージョンだ。メーカー名を隠した状態で撮影と投票を行い、どのメーカーの映像が最も適切に撮影できているのかを競うものである。
ここ数年は開催されていないようだが面白い取り組みであったと思う。是非、参考にして欲しい。
参考として
なお、上述のとおり、各社のカタログ値の基準はかなりバラバラであるが、 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)発行の「映像監視システム機器スペック規定方法」(TTR-4602C)など、統一した基準を設けようとする動きもある。この規格では、カラーの場合、<F1.2/シャッタースピード1/30秒/50IRE>を条件としている。
ただし、現状では50IREで記載しているメーカーもあれば、30IREで記載しているメーカーもあり、各社バラバラである。 (※50IREで記載すると、スペックが低く見えるため、あえて条件を30IREへ変更したカメラメーカーもある。)
まとめ
*ネットワークカメラのカタログスペックは参考程度で考える必要がある。
*実際に、どのような映像が得られるかは実機でテストすることが望ましい。